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【第2部】 第10話 流華の着物姿②

last update Last Updated: 2025-09-09 18:00:03

 その瞬間、大きな手がヘンリーの顔にかぶさった。

「どけ」

 龍の声が低く響き、ヘンリーは一瞬で横へ吹っ飛ぶ。

 驚いて視線を動かすと、壁に上半身をめり込ませているヘンリーが、ピクピクと足を震わせていた。

「……龍、ダメじゃない」

 あきれ顔で龍を見ると、彼はまっすぐな視線で見つめ返してきた。

 その瞳がゆらゆらと揺れている。

 でも、しっかりと私を見ていた。

 その熱を感じた瞬間、心臓がドクンと跳ねる。

 そして、龍が静かに微笑んだ。

「お嬢……綺麗です。

 姿を見た瞬間、息が止まりました。あまりにも可憐で」

 頬を染めながら顔を背け、大きな手で自分の顔を覆う龍。

 普段は冷静な彼の、そんな姿に胸が高鳴る。

「そんな素敵な姿を見合い相手に見せるのは癪ですが……なんとか耐えます」

 そう言いながら向き直った彼は、苦しげな表情を浮かべていた。

 ああ……。

 大好きな人を、こんなに苦しめてまでお見合いをするなんて。

 胸がぎゅっと締め付けられる。

「龍……ごめんね」

 俯いた瞬間、龍の手が私の頬に添えられ、優しく上を向かされた。

「いいんですよ。だって、流華さんは私の女でしょう?

 俺だけの――」

 その言葉と眼差しに、私の心臓は壊れそうなほどバクバクと跳ね上がる。

「も、もちろん。私は龍のものよ」

 必死で平静を装って答えると、龍は満足げに微笑んだ。

 その笑顔がまた格好よくて、顔が熱くなる。

「……流華さん」

「……龍」

「もうそろそろ、いいかの?」

 見つめ合う私たちのすぐそばから、祖父の声が聞こえた。

「わあっ!」

 また祖父の存在をすっかり忘れていた……!

 ふと視線を動かせば、着付けの先生も少し離れた場所で手持ち無沙汰に立っている。

 そして、少し頬を染めながら、興味津々といった顔で私たちを見てい
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